コンサルタントの生産管理コラム vol.3

人材育成の鍵は現場リーダーにあり・後編
数多くのものづくり現場を指導してきた現役コンサルタントが、人材育成を現場で支えるリーダーのコミュニケーションについて解説する。
(2019年10月1日発行・広報誌「生産マイスターVol.3」より抜粋)
石山 真実氏
株式会社日本能率協会コンサルティング
シニア・コンサルタント
現場の人材育成におけるリーダーの役割とは
前編では、現場で人が育つためにリーダーがなすべきこととして、リーダー自身が常に学び続け、成長し、職場・工場をどう変えたいのかという想いをもつことの重要性をお伝えしました。
リーダーが果たす役割はそれだけではありません。企業と従業員をつなぐカギとして、所属するメンバーの学びやその活用についてもリーダー自ら積極的に働きかけ、彼らとのコミュニケーションを通じて成長を支援する必要があるのです。では、実際にリーダーが現場の人材育成でどのように行動しているかご紹介します。
メンバー1人ひとりへの期待を明確にする
リーダーがコミュニケーションをしかける上で、初めに重要なことは、メンバーが「自分はどのような方向で育っていくべきか」を意識できるようにすることです。
リーダーは、個別にメンバーと面談し「企業が何をめざしていてどんな人材が必要なのか」ということを説明し、同時に、本人への期待を伝えます。
そして、相手の希望を確認しながら一人ひとりの育成計画を立案していきます。こうしたやり取りを通じ、リーダーは組織と個人の希望をマッチングさせていきます。これが、リーダーに求められる「活力ある人材育成活動」を産み出す原動力としての役割です。
学びを実践するためには支援が必要
メンバーが学んだ知識を現場で活かすには、リーダーなど周囲のアドバイスとフィードバックが必要になります。私が関わった多くの企業でよく耳にしたのは、「座学研修をしているが実務で活かされない」という管理者の声です。そういった企業の現場を実際に見てみると、学びを実践するための支援が圧倒的に不足していることがわかります。
こうした問題に対し、ある会社では2つのしかけをおこなっています。1つめは、座学研修の開始と合間、そして終了時に、リーダーを交えながら「自身や職場を取り巻く状況の共有」と「今後の活動への期待とその動機づけ」を行うことです。
研修に参加したメンバーはこのプロセスを経ることで、研修に参加する目的と、学んだことを今後どのように活かすのかをあらためて強く意識することができます。


(左)学びと実務を結びつける振り返りシート例(右)リーダーの働きかけがメンバーの成長を支える

学びと実務を結びつける振り返りシート例

リーダーの働きかけがメンバーの成長を支える
研修から現場に戻ってしばらくは、「学んだ知識を活かそう」という意欲をもって業務に取り組みます。しかし、「この手法を適用していいのだろうか」「研修で学んだことのどれにあたるか」などと、メンバーが一人で悩んでいるうちに、学んだ知識を実務に活かせなくなってしまいます。それを防ぐためには、リーダーはメンバーが得た知識を適切に活かせているかどうかを確認し、アドバイスやフィードバックをすることが欠かせません。
そこで、2つめのしかけとして、フォローのための「振り返りシート」を活用しています。メンバーは職場での実践と気づきをこのシートに毎日記入し、リーダーはそれにアドバイスとフィードバックを行います。メンバーは、学んだことや気づきを自分の言葉で考え、表現し、アドバイスなどをもらうことによって、研修で得た知識と実務を結びつけられるようになります。
成長がもたらす良い循環
こうしたリーダーが主導するきめ細かなコミュニケーションにより、メンバーは学んだことを実務に役立てていきます。この積み重ねによって「学ぶことへの意欲」や「教育を受けたことへの感謝」が生まれ、さらなる成長へつながります。
また、「自分がしてもらったことを後輩にもしてあげたい」という、組織やそこに属する人を支える愛情も育まれていき、良い循環が生まれます。
ものづくり現場で成果をあげる人材育成活動とは、こうしたサイクルを回すことではないかと私は考えています。そしてそのカギとなるのが、現場を支えるリーダーであることをご理解いただけたのではないでしょうか。
皆さまの職場の人材育成に、これらの話が少しでも参考になりましたら幸いです。

石山 真実
(いしやま まさみ)
株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティングカンパニー
プロセス・デザインセンター
シニア・コンサルタント
工場の総合コストダウンを主軸に、自動車、自動車部品、電機、化粧品、医薬、化学、食品など数多くの業種で成果をあげてきた実績を持つ。近年では、営業・開発・生産一体体制での売上倍増活動も展開。あわせて、次期幹部の事業家能力醸成、次期社長体制の確立支援を展開し、好評を得ている。
また現場診断(生産性向上・原価低減の可能性診断)についての、プログラム開発や実施 経験も豊富。
人材教育では、「生産革新コース(IE士認定)」や「生産技術者コース(CPE認定)」の講師として、その実践的な内容は好評を得ている。「生産マイスター」の通信教育テキストやスクーリング開発も実施。

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