1級(3)企業経営と品質

1級(3)「企業経営と品質」
管理職の方であればすでに品質管理について学習されているかと存じますが、もういちどここでおさらいをしておきましょう。
1. 経営と品質
品質管理とは、品質というものさしで経営活動を管理して品質目標を達成することで、品質保証とは、その目標達成のために全員参加で推進される活動そのものです。
「良い品質とは何か」ということが主要なポイントで、顧客の要望(品質・価格)に合った設計品質で、製品仕様どおりの合格品(適合品質)をもっとも少ないコストで市場に供給することが重要となります。
また、品質を不良率のような狭い考え方ではなく、経営課題として認識することも重要です。グローバル化をふまえ、多様化・高度化する顧客要求に対応していくための品質保証体制の枠組みについての考え方についてもみていきましょう。
1-1. 経営と品質管理
企業は、価値ある製品やサービス(品質)を市場に提供するこtで収益を上げ、かつ社会に奉仕し、存続しています。
品質管理は、原価・納期とともに、経営や生産活動の重要な側面であり、これらの一次管理を進めるには、4Mなどの二次管理が重要となります。品質目標を達成するため、全員参加による品質保証活動が必要となります。
1-2. 経営課題としての品質
市場の要求に合った製品を適切に設計し、設計企画に合致した製品を作るために、品質を設計・製造・市場の各々の段階で正しくとらえる必要があります。顧客要求を満たしつつも、低コストでの製造が求められます。
品質を経営的な課題としてとらえ、個別の製品品質にかかわる取組に加え、企業としては、品質保証上の観点からリスクマネジメントに取り組み、品質不具合の徹底した未然防止をめざすことが重要となります。
1-3. 品質計画と設計
市場要求が多様化するなかで設計品質を確実なものとするには、顧客の出費限度を把握し、品質とコストのバランスを決めることが主要課題となります。
また、設計でコストの大部分が決まるため、VE・VAの考え方に基づく検討や、源流段階からの品質保証が期待されます。
グローバル化は顧客の要求を多様化し、市場の競争を激化させますが、企業としては設計方法および分業の見直しなどを進め、世界規模での迅速・効率的な品質実現を考える必要があります。
1-4. 品質ビジョンと品質戦略
現在の品質を取り巻く、より複雑化する状況を乗り切るためには、事業戦略的な観点から実現すべき品質水準を定めた品質ビジョンが必要となります。
これからの品質褒章を考えるにあたっては、戦略・しくみ・実施・基盤という4領域を念頭に、さらにいままでの現場の改善力を組みこんだ新しい枠組みを構築し、品質に強い組織を実現することが期待されます。
生産管理に役立つ実践問題
1. つぎの(ア)~(ウ)は、①~③のどれと関係性が高いでしょうか。
(ア)設計品質
(イ)製造品質
(ウ)市場品質
① 顧客の満足
② 製品の仕様の確定
③ 不良品を作らない
2. つぎの文章の【 】に適切な語句を当てはめましょう。
設計品質は、【①】 と顧客を組み合わせて層別した【②】を対象に考えなければならない。
一般的に、顧客の製品に対する出費の程度は、②が意図する【③】と必要性、②の【④】の大きさとその④から導かれた製品価格に対する【⑤】(買ってもいいと思う金額)によって決まる。
3. VEに関する次の語句について説明しましょう。
①価値の向上
②オーバースペック
4. 製品が市場において常に競合の場におかれている品質競争のなかでのアピールポイントを3つ挙げましょう。
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2. 品質保証と工程管理
ここでは、製造工程における品質保証および品質管理の基本的なテーマを扱います。 工場における具体的な品質保証活動の原則および概要を整理し、品質保証体系や品質保証部門が果たす役割について学習します。
また、源流管理の考え方に立ち、発生源対策を行うことにより、検査に頼らないしくみをもとにした品質保証の考え方を理解します。
さらに、製造の第一条件である設計品質を十分満足させることのできる工程能力をもつ意義についても復習しておきましょう。
不良をなくすために、あるいは顧客要望を満たしたり、激しい競争に勝つためには、絶え間ない改善が要求されます。検査(受入れ・工程・製品)は必要と言えますが、多くのコストがかかり、生産期間も長くなるので、不良品を作らない工程の管理こそが重要となります。
改善のための各種手法やSQC(統計的品質管理)も学んでおくことをおすすめします。2-1. 工場における品質保証の基本
工場におけるさまざまな品質保証活動は、複数の部門が関連しています。これらの活動の全体的なつながりを表したものが品質保証体系図です。
品質保証活動では源流段階からの品質改善(発生源対策)と工程での品質作りこみを進め、検査に頼らない品質保証をめざすことが大切となります。
2-2. 工程能力
工程能力は、製造工程で品質を作り出す基本的能力です。製造工程では、この能力を工程能力図や規格幅との比較により分析・改善し、これをもとにした品質管理を進める必要があります。工程能力はCp値で表され、Cp値を高い状態に維持することが重要となります。
2-3. 品質改善
不良品を作らないことが製造の役割ですが、そのための品質改善の基本はサイエンティフィックアプローチにあります。なかでも、不良原因の追究は適切に行う必要があり、現場で十分管理することができていない、いまなお不良を出している項目を重点的に取り上げるべきといえます。
2-4. 管理図と工程管理
統計的管理状態を保つのが品質の工程管理の問題であり、このための方法ないしは考え方が管理図です。管理の考え方とデータ種類による統計的な分布という背景をしっかりとおさえたうえで、異常状態を正確に把握できるようになるのが理想です。
2-5. 統計的品質管理
抜取り検査、管理図、実験計画法などの計算方法、その基本となっている数理統計や確率論の概念をきちんと理解しておくことが重要となります。
数式を活用する分野として、信頼性と品質工学についても理解しておくべきといえるでしょう。信頼性を高めるには、初期不良、正常期間の故障率および正常期間(寿命)の長さに注目し、対策をとるべきといえるでしょう。
生産管理に役立つ実践問題
1. つぎの文章のうち、正しいものを2つ選びましょう。
①特性要因図には、品質特性を動かすあらゆる要因を入れるべきである。
②技術者や作業者は、不良原因についてほとんど理解していない。
③問題点の究明や改善のアイデアは、実際に現場で実施し、試してみるとよい。
④どんな製品が対象であっても、抜取り検査による検査は可能である。
⑤数多くのわからない要因は、すべて実験計画法を用いて実験から探すと、正しく発見される。
⑥実験計画法では、定性的有意性より、定量的な平均差やバラツキの減少からの判断が経済的に価値がある。
2. 統計手法を用いるときに注意すべき点を述べてみましょう。
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3. 品質のための4M管理
品質管理は一次管理とされていますが、実際には二次管理である人・材料・設備・作業方法の4Mの活動に依存しています。
高品質の製品を生み出すには、良い材料や部品を使い、工程能力を十分もった設備により、正しい方法で生産しなければなりません。
最終的には、設備を使いさまざまな方法を駆使して品質に作りこむのは「ヒト」で、多くの企業は全部門にわたって活発な小集団活動をおこない、その活動は品質の改善に大きく貢献しています。
3-1. 働く人と小集団活動
我が国の小集団活動は、新しい経営や労務管理の考え方として世界の注目の的になっています。企業を動かすのは人であり、組織人のすべてが共通の経営目標のもとに自主的に自分たちの仕事を達成しようとする活動そのものが組織の活性化につながります。
現場におけるスキル管理を適切に行い、作業者のスキルアップ、ベテランからの技能伝承、職場としてのスキル整備と充実化を進めることが必要となります。
3-2. 品質安定化のための設備管理
生産は設備・治工具・測定具を介して行われますが、工程能力もこれらの機能・精度によるといえるでしょう。設備の「あるべき姿」の保持、運転・調整のあり方、品質を測定する治工具・測定具の管理なども、品質管理の重要な課題となります。
5S運動も「清掃は点検なり」という意識をもって取り組むことが品質維持の一環となります。
3-3. 品質側面から見た購買・外注管理
購買・外注は製品工程のスタートラインで、当社が要求する品質のものが納められなければならなりません。そこで購買・外注先の十分な品質管理が求められ、購買・外注先の選定・評価とくに品質工程能力のチェックが重要となります。
技術的に発注企業側のレベルに達しない協力会社等の場合、具体的な品質管理の指導・育成も必要となってきます。
3-4. 標準化と規格化
現代の多品種対応、すなわちフレキシブルで効率のよい生産システムにするためには、その動きに合わせた標準化・規格が必要です。
生産工程の自動化は進んでいますが、人の作業がなくなるわけではなく、作業標準として着実に管理していかなければなりません。標準はメンテナンスが容易なように、変更点管理を適切に行うことも期待されます。
生産管理に役立つ実践問題
1. 設備・治工具・測定具などの「あるべき姿」を維持するために行うべき保全活動の組み合わせを5点挙げてみましょう(正解の組み合わせは2通り)
2. つぎの文章の【 】に適切な語句を当てはめましょう。
購買・外注の品質管理については、一定項目をもとにチェックするのはもちろんだが、発注元企業の【①】と十分強調でき、正しい【②】検査もしくは作りこみ品質保証が行われ、【③】を省略できることが望ましい。
技術的に弱い外注先に対しては【④】・【⑤】の手も貸さなければならない。
3. つぎの文章のうち、正しいものをひとつ選びましょう。
①多品種生産の時代となり、部品・治工具・測定具などの標準化は不可能である。
②作業標準を細部にわたって詳細につくり、決められたとおりに作業をさせるべきである。
③細かな手順・あらゆる場の処理などを定め、さまざまな問題にぶつかったときの対処方法をすすべて機械に教えこまなければ、CAM・FMSの効果は不十分である。
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4. 品質保証の実現と高度化
品質の保証は、企業が満たさなければならない顧客への債務ですが、最近の市場における品質要求は高度化・複雑化しており、従来型の個別製品の保証に加え、企業としての品質ビジョンや品質戦略に基づく品質保証機能全体の高度化が期待されていることを理解しましょう。
品質保証を確実に行い予防処置をとることは、企業を取り巻くさまざまなリスクに対応することにほかならず、企業の存続にとって重要な課題であると同時に、各部門間の機能提携を密にし、品質保証機能の連鎖(クオリティーチェーン)をより強固なものにする必要があります。
品質コストを明確にし、予防コスト・評価コスト・失敗コストを管理することで、その低減を実現することも学ぶ必要があります。
また、品質保証の高度化に向け、国際的な品質マネジメントの規格であるISO9001を有効に活用する点や、品質に強い人材を育成し、品質に強い組織を擁立し、企業としての品質文化を醸成する重要性も理解しておきましょう。
4-1. 品質保証の実現に向けた取り組み
あ顧客要求が高度化・多様化するなかで、要求品質は複雑性を増しています。このような時代にあっては、事業の方向性と連動した品質ビジョンの打ち出しが必要です。また、ビジョン実現に向け、「戦略・しくみ・実施・基盤」という4領域から品質保証の刷新を考えていく必要があります。
4-2. 品質リスクマネジメント
品質リスクを理解するためには、「事象・要因・被害」という言葉の意味を整理することが入口となります。また、その構築は、以下の3ステップで展開する必要があります。
・リスク事象と要因の洗出し
・リスクの評価
・リスク対策
手法はいろいろ存在するので、対象の製品特性、品質特性に見合った選択が必要となり、一過性のものではなく、日常業務に落としこむことが勘所のひとつとなります。
4-3. クオリティチェーンマネジメント
品質保証プロセス全体のレベルアップをねらい、品質を実現するための各部門間機能の連携(機能連鎖)を強化するもので、機能単独では見出しにくい課題を抽出し、改善を行うことが可能となります。
そのスタートは、品質定義と品質ギャップの特定ですが、後者については、潜在的なケースの洗出しの工夫や、継続した市場のモニタリングや情報収集などを行う必要があります。
4-4. 品質コスト管理
品質コストは、経済的に合理的な品質水準と予防コスト・評価コスト・失敗コストの3つで構成されます。この合計であるトータル品質コストとの関係を理解し、それが最小となる品質水準を設定するために活用されるべきといえるでしょう。
品質とコストの関係性は品質コストモデルとよばれ、2つのモデルがありますが、「品質の作りこみを中心とする品質コストモデル」の考え方に立脚し、不良や不具合という失敗コストを撲滅するため、源流段階での評価や予防コストを効果的に使い、結果として検査という評価コストをおさえこむことが重要です。
4-5. ISO9001の機能と役割
ISO9001:2008の規格は、品質マネジメントシステムにおける要求事項を示した国際規格です。
規格の活用に際し、「計画した活動を実施し、その計画した結果が達成された程度」という有効性の概念や「活動の成果がどの程度の資源の投入でなされたかというインプットとアウトプットの関係」という考え方を理解したうえで、品質保証体制における有効性を保ちつつ、どのようにして効率を高めていくかを考えることが重要です。
全体的には、監査という判定の機会を活用して運用していくのが望ましいといえます。
4-6. 品質文化の醸成
品質に強い組織とは、現場に立脚して「しくみ」「人」「成果」の3つがそろい、現場が活性化され、品質改善・コスト改善が進み、そこで働く人が誇りをもって作業している状態の実現と考えます。また、顧客起点・未然防止といった能力も身につける必要があります。
品質文化は「永年培われた品質に対する企業の姿勢」であり、人や組織の品質意識・行動の「源」です。今後も品質文化の醸成と高度化に向けて、ものづくり現場の力を合わせていくことが必要です。
生産管理に役立つ実践問題
1. 品質保証高度化のための4領域を挙げてみましょう。
2. つぎの文章のうち、正しいものを2つ選びましょう。
①品質リスクをとらえるためには、過去のトラブルや事例のみにかかわる品質を損なう事象を網羅していればよい。
②RPNは「発生可能性」と「被害の大きさ」から算出できる。
③品質保証を高度化するためには、品質を実現するための部門間機能を強化していくことがもっとも重要である。
④ISO9001を活かし、成果を上げ定着させるためには、定められた計画を達成するだけでなく、効率を高めるための工夫をシステムのなかに組み込んでいくことが重要である。
3. 品質に強い組織をつくりあげていくために備わっているべき要素を3つ挙げましょう。
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